REPORT Vol.18

2022年 3月12日

企業の思いが透けて見える時代 DMはファンへのお手紙に

トッパンフォームズ 企画販促統括本部 企画本部 CX制作部
調査分析グループ マネージャー 中井孔美子氏

ファンベースカンパニー 代表取締役社長/CEO 津田匡保氏

コロナ禍で変わるDMの役割

──コロナ禍によって、企業の動きはどのように変わっているのでしょうか。

中井:急激にデジタルに舵を切る企業が増えています。消費者側も一気にデジタルにシフトせざるを得ない状況になり、企業に求めるものも変化してきていると感じています。そんな中で企業は改めてお客さんと向き合い、行動を見つめるきっかけになっているのではないでしょうか。

津田:コロナ禍前からそうですが、今は情報が伝わりにくい時代になっています。情報量が無限に増えている中で企業は生活者に伝えたいことを伝えないといけません。コロナ禍でライフスタイルや価値観が変わり、お客さんがより企業の本質的な部分を見るようになってきました。そこが、これから企業が活動していく中で重要なことだと思います。変わる生活者に合わせて、企業も変わっていかないといけません。

──企業のマーケティング活動で、課題になっていることは。

津田:日本でこれから人口が減っていく中、新規獲得だけで成長していくのは限界があります。新しいお客さんばかりではなく、今いるお客さんを大切にしていくという発想が重要になっているのです。そのため、企業がどういう風な未来を考えているのか、貢献していきたいと考えているのかということを伝えていく必要があります。価値を伝えていくうえで、デジタルだけでは不十分です。デジタルはひとつの手段。全体のコミュニケーション設計をすることが重要かなと思います。

中井:その流れで言いますと今は、お客さんと信頼関係を築き、好きになってもらう良い機会だと捉えられますね。

津田:はい。機能だけでなく感情でファンになってもらえればお客さんは離れません。LTVを見ていく上では、今の購買データだけを見ていてはミスリードします。購買の裏にある感情に踏み込んでいくことが大切です。ですがそうなると、「感情の可視化」が課題になると思っています。
私も前職時代からいろいろトライしてきましたが、現状では「感情を可視化する指標」としてしっくりとくるものがありませんでした。人の感情って複雑なものなのです。そのため当社では顧客の感情を可視化して向き合っていくために、ファン度を測る指標を軸にしたサービス「ファンベース診断」を自分たちでつくりました。

中井:やはり感情を把握することはキーですよね。当社でも、脳の微弱な電流を測り、生体反応から消費者の感情に何がどう影響するのか、科学的なアプローチで行動を分析しています。企業や商品との接点において、いかにお客さんが喜んでくれる体験をしてもらえるか、企業は考えていく必要があります。

──そういった状況の中、DMが果たせる役割について教えてください。

津田:基本的には、企業の「思い」を紙で伝えるとても有効なツールだと思っています。DMは前職時代にもよく使っていました。ですが、先ほどの指標の話のように、受け手が何かリアクションをしてくれないと効果やそもそも感情なども測れない課題はあります。効率を重視して、CPAがいくらなのかとなりがちですが、反応しなかった人の感情がどうなっているのかは、今後掘りがいのあるテーマだと思います。

中井:DMは企業とお客さんとのお付き合いの始まりです。当社では毎年DMに関する自主調査をやっていますが、2019年度の結果でDMを手に取った時に「どの企業から来たDMなのか」が開封するかどうかの一番の判断基準になるということが分かりました。信頼関係ができている企業からのDMはきちんと読んでもらえる可能性が高いのです。 大量に届くeメールなどのデジタル情報はその瞬間に見てもらえないとスルーされてしまう可能性がありますが、DMは「お手紙」といった感じで受け取ってもらえるのだと思います。しかも、手元にとっておいていただける。

津田:紙の良さはありますよね。カタログ通販を行っている会社さんがファンに聞いたところ、カタログをお風呂に入りながら読む人がいました。デジタル化はこれからも進んでいきますが、紙が届いている人には届いています。両方の良さを最大化して、両輪で使っていくということが大事ですね。

中井:紙とデジタルの両立はまだ明確な正解があるわけではありませんので、新しい時代の中で試行錯誤していく必要がありますね。

──お二人が考えるDMアイデアは。

津田:中井さんのお話にもありましたが、DMは「お手紙」だと思っています。好きな人からはうれしいし、その思いが書かれているとさらにうれしいもの。そのため理想は「文通」です。受け手の企業側が大変かもしれませんが、単発プロモーションの案内でなく、お客さんと関係を結んでいく、キャッチボールできるDMがあればいいなと。お客さんが書けるスペースがあり、返送できるのです。
また、DMからいきなり購買を促すのではなく、一度オンラインミーティングに誘ってみる、そこで企業の思いをしっかり伝えるということもよいのではと考えています。オンラインミーティングの参加チケットを送るイメージです。

中井:家族でシェアできるDMがあればいいですね。例えば、お母さん宛のDMをお父さんやお子さんとシェアできる。事前に企業側が送り先の家族構成が分かるようであれば、お父さん向けの情報、お子さん向けの情報などをひとつのDMにして送ることができます。それを家族みんなでシェアしながら見てもらう。これは紙ならではのアイデアです。印刷技術も進化していますので、送り先ごとに内容を変えることも可能です。外出自粛・在宅勤務が増えたので、家族時間を楽しめるDMがあってもいいと思います。

──全日本DM大賞に期待することは。

中井:近年の応募作品は、デジタルと紙が融合した作品が増えており、そうした作品が賞をとってきています。それらの組み合わせも大事ですが、企業の「思い」をどうお客さんに伝え、DMをきっかけにいかにお客さんに心地よい体験をしてもらえるのかが重要だと思います。こうした企業の「思い」がつまった作品が本賞で取り上げられることを期待しています。

津田:これからの時代、「共感」がキーワードになってきます。コロナ禍によって、「企業も人である」と生活者が改めて実感しました。例えば小売店の店員さんも大変な環境下で、サービスを届けるために店頭に立ってくれています。そのため、企業ももっと「人」を感じさせる施策を行ったほうがよいのではないでしょうか。生活者に企業の思いが透けて見えてしまう時代です。自分の家にこのDMが届いたら、「自分は共感するのか?」という観点で、DM企画を考えてもらえると、よりこの賞も盛り上がると思います。

お知らせ一覧