REPORT Vol.16 「DM4.0」時代が到来 審査委員特別賞に「データドリブン部門」を創設

2019年 9月16日

「DM4.0」時代が到来
審査委員特別賞に「データドリブン部門」を創設

「第34回 全日本DM大賞」では、作品を募集しています(締切は2019年10月31日)。今回より審査委員特別賞に「データドリブン部門」が加わりました。特別賞新設の意図、そしてこの時代だからこそDMに求められる役割について、審査委員を務める日本ダイレクトメール協会 専務理事の椎名昌彦氏と、大賞を主催する日本郵便の中垣征也氏・松本俊仁氏に話を伺いました。

日本ダイレクトメール協会
専務理事
椎名 昌彦 氏

日本郵便
郵便・物流営業部 係長
中垣 征也 氏

日本郵便
郵便・物流営業部 専門役
松本 俊仁 氏

DMに顧客の行動データを掛け合わせタイミングの最適化をはかる

――今年で34回目を迎える全日本DM大賞ですが、応募作品の傾向などから見て、DM というメディアにどんな変化が起きているのか教えてください。

椎名氏:広告マーケティング全体でデータ活用が進んでいますが、DMの歴史を「データ活用」という切り口で振り返ると、いくつかの分岐点があったと思います。
まずは「ターゲットを絞り込む」といったデータの活用がほとんどなく、マスに向けたコミュニケーションと同じ役割を担った時代。これを「DM1.0」と呼びましょう。情報をばらまくためのDMです。自ずと勝負所はクリエイティブとなるため、ユニークでクリエイティブなDMが多数生まれました。
次に訪れた「DM2.0」は、名前や年齢、性別、職業などのプロフィールデータを用いるDMです。DMの中に名前を印字したり、顧客の属性に応じて訴求内容を変えたりと、パーソナライズされたDMが出てきました。 そしてここ10年間は、「購買履歴データ」の活用が本格的となった「DM3.0」時代でした。たとえば2011年全日本DM大賞の金賞に輝いたスカパーJSATのDMは、視聴データの分析に基づき、顧客ごとに最適な無料視聴チャンネルを伝える案内を行っています。

作品名:「スカパー! e2 顧客維持プログラム フェーズ2」
広告主:スカパーJSAT/制作者:富士ゼロックス/渡辺潤平社/buffalo-D

この頃から、購買履歴データを分析して最適なクリエイティブに結びつける手法が主流となってきました。その到達点とも言えるのが、2018年にグランプリを受賞したソフトバンクの「あなただけのケータイアルバム」DM。ソフトバンクのロイヤルユーザーに向け、過去10年間にそのユーザーが使用したケータイ機種をアルバムのようにまとめたDMで、一人ひとり内容が異なるものでした。

作品名:「10年間の感謝を込めたあなただけのケータイアルバム」
広告主:ソフトバンク/制作者:トッパンフォームズ

では、次なる「DM4.0」はどうなるかというと、その兆しは2019年のグランプリ作品である、ディノス・セシールの「カート落ちDM」に見られたと思います。ECのカートに商品を入れてから離脱した顧客へ最短24時間以内にDMを送付するというものでした。購買履歴データを単体で活用するのではなく、それにWeb上で取得した「行動データ」を掛け合わせる手法です。これによってDMにおけるデータ活用に「タイミングの最適化」の視点が加わりました。まさに今「DM4.0」の時代に突入したと私は思います。

作品名:「最新テクノロジーで自動化へ!パーソナライズされた情報が欲しいタイミングで届くDM」
広告主:ディノス・セシール/制作者:ディノス・セシール
第1弾「カート落ちDM」はカート落ちした商品を自動的に掲載し、最短24時間以内に発送。

中垣氏:DMは基本的には宛名が必要なので、もともと「データドリブン」な媒体なわけですが、デジタル上で取得した「今・何をしてる」というデータをプラスした「カート落ちDM」は、他の作品と比べデータの活用の仕方が抜きん出ていました。

松本氏:タイミングを最適化するDMを同じように実現してみたい、という声を広告主企業から聞くようになりましたね。

中垣氏:受賞作品に限らず、すべての応募作品を審査で見ていると、リテンション(顧客維持)を目的としたBtoCのDMが増えていたり、BtoBのDMが増えていたりしてDMが担う役割自体が広がっているようにも感じます。

椎名氏:ポイント会員システムなどを利用して、通販会社に限らずどの業種でも顧客データを取得するようになったことで、DMを送りやすい環境が整った、ともいえると思います。特にデジタル印刷の技術の進化は大きな影響を及ぼしています。ある程度デザインパターンを事前に用意しておくことによって、一晩で出力・発送することさえできるようになりました。デジタルデータやITテクノロジーの活用によって、制作から発送までにかかる時間が短縮されていることも、「DM4.0」時代の後押しになっていると思います。

――行動データの活用や、タイミングの最適化ができるようになったからこその課題もあるのでしょうか。

椎名氏:「今」の相手の動きを知り、活用できる分、相手との距離感を間違えたDMを送ると、炎上やネガティブな反応につながりかねないと思います。これまで取引のない見込み客に対して「あなたのことを知っています」と伝えたら、「なぜ知っているのか?」と疑念を持たれるでしょう。一方で10年来付き合いのある顧客に対して、素っ気ないコミュニケーションをすれば、「大切にされていない」という印象を植え付けてしまいます。DMが1to1で顧客と向き合うマーケティング手段だからこそ、マーケター自身が正しく「距離感」をはかる視点は非常に重要だと思います

中垣氏:DMは顧客の背中を押し、購入や申し込みを促すのが得意な媒体です。だからこそ、いつ・どんなシーンで背中を押されると一歩踏み出すことができるのか。どこで背中を押されると不快感を抱くのか。データを活用できる時代だからこそ、受け手の心理状態をいつも考えなければいけませんね。

データ活用を軸にした戦略的なDM施策に期待

――次回より審査委員特別賞に「データドリブン部門」が加わりました。賞を新設した狙いを教えてください。

中垣氏:ほとんどのDMはデータを活用しています。ただし、たくさんあるデータの中からデータを選んで分析・活用し、「この人に、このタイミングで、これを訴求する」といったシナリオを作っていくことについては、マーケターの手腕が問われます。DM施策の背景には、どのデータをいかにつなげて活用していくかについて考え抜かれた全体戦略があるはずです。またDM単体だけで完結しない施策も広がっています。 私たち審査をする側は、DMの背景にある戦略、シナリオを含めて、きちんと評価していきたい。そうしたメッセージを「データドリブン部門」に込めています。表面の施策だけ見ていると全体像を捉えにくい分、審査する側としては身が引き締まる思いもあります。
全日本DM大賞は広告プロモーション全体を評価する賞ではありませんが、全体のシナリオをふまえて「DMがいかなる役割を担えているか」を審査していきます。これまでどおり審査では「戦略性・クリエイティブ・実施効果」の3軸を評価し、データドリブン部門では「DM4.0」時代の綿密なデータ戦略のもと制作されたDMや、新たなデータ活用でDMの役割を開拓しているような作品を表彰し、DMメディアの可能性を広く紹介していきたいと考えています。

椎名氏:「絞り込んだターゲットに合わせた表現」「タイミングの最適化」「1信、2信、3信の組み合わせ」「メルマガをどう絡ませるか」など、全体のストーリーやコンテクストが、複雑化したコミュニケーションの中では重要になっています。そこにはデータの活用が欠かせません。一つひとつのDMというコンテンツだけでなく、データ活用を軸にした戦略性の評価項目を強化することは、DMの価値を伝えていく賞として自然な流れだと思います。

――応募者に期待することはありますか?

松本氏:DMを活用する企業には「どうお客さまとコミュニケーションをとるか」の戦略があり、「どのチャネルを使ってお客さまとコミュニケーションをとっていくか」と考えた結果、DMが何らかの役割を期待されて選ばれているはずです。「お客さまのどのホットな情報をとって、どうコミュニケーションをとるのか」に対して工夫のあるDMに期待しています。

中垣氏:デジタル施策を得意としてきたマーケターにも、紙のDMをぜひ活用してほしいですし、多くの方からご応募いただける賞になればと思います。

椎名氏:「DM4.0」へ向かう傾向は確かにあり、ここまで「データドリブン」に焦点をあててお話をしてきましたが、全日本DM大賞においては、「行動データ」を活用したDMだけが高く評価されるわけではもちろんありません。例えば購買履歴データから、これまでにないクリエイティブの最適化ができた事例もあるかもしれません。さまざまなデータの活用方法や、大胆なクリエイティブ手法に出会えることを期待しています。

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